冷たい秋雨が、窓の外で静かに降り続けていた。
ビルの隙間から見える銀杏の木々は、黄金色の葉をまとい、風に揺れている。俺はその光景を眺めながら、指先でスマホをいじっていたが、気持ちはどこか遠くに飛んでいた。
この場所、この時間は、決して正しいものではない。けれど、彼女がいる限り、俺はここに戻ってきてしまう。
「やっぱり、来ちゃったね」
後ろから聞こえる彼女の声に、俺はゆっくり振り返る。そこには、濡れた髪をタオルで拭いている彼女、香織がいた。彼女はバスローブ姿で、少しもためらいを見せずに俺を見つめている。以前よりも少し大人びた表情だが、どこか変わらない柔らかさを感じさせた。
「雨が降ってるから、帰るのやめたんだよ」と俺は冗談めかして言うが、香織は静かに笑うだけだ。
俺たちは大学時代の恋人だった。付き合いは短かったが、彼女との時間は今でも鮮明に残っている。だが、俺たちは別れ、互いに別の人生を歩んでいた。
香織には今、夫がいる。そして俺にも、家庭がある。
それなのに、ここにいる。
「いつまでこうやって会うんだろうね」と、香織が言った。彼女の声は穏やかだが、その言葉には少しの寂しさが滲んでいる。
「そんなこと考えないようにしてたよ」
「でも、ずっと続けられるわけじゃないよね。お互い、誰かを傷つけてるし」
俺は言葉を返せなかった。彼女の言う通りだった。これはただの一時的な逃避で、続けるべきではない関係だ。香織が正しい。俺たちは、現実から逃げているだけだった。
「いつも雨の日に会ってる気がする」と香織はつぶやく。
「そうだな。雨の日は、気持ちが不安定になるからかも」
彼女は窓の外を見つめながら、小さくうなずく。その横顔を見ていると、俺は大学時代の彼女を思い出す。秋の日差しの下で笑っていた彼女は、もっと自由で、もっと無邪気だった。今の彼女には、その頃の輝きがどこかに消えたように見える。
「これが最後にしよう」と香織が寂しそうに言った。
「……そうだな」
言葉に詰まりながらも、俺はうなずいた。自分の胸に重くのしかかるものを感じたが、逃げ続けるわけにはいかなかった。俺たちにはそれぞれの人生があり、それを壊すことはできない。
「じゃあ、最後にひとつだけ聞いていい?」香織がそっと俺の方に視線を向けた。
「なんだ?」
「……もし、あの時、別れてなかったら、私たちどうなってたと思う?」
予想していなかった問いに、俺は答えがすぐには出せなかった。けれど、彼女の瞳が真剣だったので、俺は正直に答えることにした。
「きっと、どこかでこうしていたんじゃないかな。けど、後悔はしてないよ。今の人生にも、愛する人がいるから」
香織はそれを聞いて微笑んだ。そして静かに「そっか」とだけ言い、何も言わずに俺の手を握った。温かくて、少し震えているその手を感じながら、俺はその瞬間が永遠であるかのように思えた。
でも、永遠などないことを知っている。
雨はまだ降り続けている。
俺たちはしばらく何も言わず、ただその音に耳を傾けた。部屋の中は、雨音と微かに流れる街の喧騒だけが響いている。
「ありがとうね」と彼女はそっとつぶやき、俺の手を離した。
俺は何も言わずに立ち上がり、コートを羽織った。玄関で振り返ると、香織は微笑みながらも、どこか切ない表情をしていた。
「じゃあね、元気で」
「うん、またね」
ドアが閉まる音とともに、俺たちの関係は静かに終わった。雨がさらに強く降り始めた。俺は深く息をつき、振り返らずに歩き出す。
秋の冷たい雨は、まるで俺の心を洗い流すように降り続けていた。
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